さんらいい ほんか
━━━主爻
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〈卦辞〉
「頤は貞しければ吉。頤を観て自ら口実を求む」
〈読み方〉
いは ただしければ きち。いをみて みずから こうじつをもとむ。
〈説明の要点〉
「頤」というのは「おとがい」と読んで、上顎と下顎が向かい合っている象を見ています。
初爻が下顎で、二・三爻が下歯、上爻が上顎で、四・五爻が上歯……口の格好を見て取ったのです。
この山雷頤の卦は歯の卦だと見ても良いのです。
なぜなら、歯という字の上には、止まるという字があります。
それは外卦の艮です。
そして、その下にクシャクシャと並んでいるのが二爻から五爻までの四陰の歯牙で、それから下の方から三方を囲っているのが震の初爻の一陽です。
また、秋になって収穫したものを蔵の中に入れて蓄えておくことは、ひとつ前の山天大畜でしたが、もしこのまま放置しておけば、永い時間のうちには下の方から侵されて(初爻の陽が陰に変わり)、山風蠱となり、蠱敗を生じて来ます。
それを有効にするために、大畜の次に山雷頤が置かれたと見ることができます。
頤の卦は歯であり、顎でありますが、ここから食べ物を入れて体を養って行く。
それが口の最大の働きです。
この働きの意味を広く、色々な事の上に推し当てて行きますと、徳を養う、人を養うという風に一面において努めることにより、他の一面を大きく裕かに養い育てて行くことになります。
ですが、この頤の道というのは、一方から一方へと尽くすだけでなく、お互いの身に返って来るのです。
体養においても徳養においてもそうです。
頤は初爻から五爻までに、復の卦が見られますし、逆に上爻から二爻までを見ても復があります。
内卦は震で動き、外卦は艮で止まる。
それが頤の卦徳ですし、口の正しいありかたです。
初爻と上爻が陽で、他は陰です。外剛内柔、または外実内虚です。
本卦・綜卦ともに、まったく同じ象で、相互援助の象とも、両々対峙の象とも言うことができます。
まず「頤は貞しければ吉」とあります。
頤は養うという卦ですから、その養うものが悪いものだと、すぐに中毒を起こし、体を壊してしまうので、より正しいものでなくてはなりません。
食物だけでなく、自分の摂取するものは知識にしても思想にしても、みな正しいものでなくてはいけない。
正しものであれば、結果として吉を得られますので、それを「頤は貞しければ吉」としています。
人に仕えて禄を受けることも大きく見た頤養の道ですが、自分を養う主なる人が悪者であったなら、いかに忠勤に抜きんでても正しいとは言い難く、もちろん吉を得ることはできません。
このように養いの道は重大なものですから、自分の養いが貞しいか、貞しくないか、常にこれを省みて、正しく豊かなものを求めて行かなくてはなりません。
それが「頤を観て自ら口実を求む」で、頤の貞吉を得る方法を示したものです。
「口実」というのは「かこつける」で、弁解の材料というような意味に通常用いられていますが、ここで言う口実とはそういった意味ではなく、口の中に入れるもの……食料のことです。
(加藤大岳述 易学大講座 現代語要訳)