〈爻辞〉
「明夷。于き飛び其の翼を垂る。君子于き行きて、三日食わず。往く攸あれば、主人言あり」
〈読み方〉
めいい。ゆき とび そのつばさを たる。 くんし ゆき いきて、みっか くらわず。 いくところあれば しゅじん ことあり。
<爻辞の意味>
「明らかなものが傷つけられる時代。翼を垂れて去る。君子は三日、食べずに去る。そのような様子に文句を言われる」
「地火明夷(ちかめいい)」の卦(か)は、「明らかなる者が傷つけられる時代」について説かれた卦です。
そのような時代の中、この初爻は周囲に気づかれないよう静かに逃げ去る者です。
その様子を、翼を垂れ低く飛んで逃げていく鳥に喩えています。
三日間、食事をしないで進むほど、急いでその場を去ろうとしています。
そんな様子を見た人は、この者を疑い、文句を言ったりするのです。
「占った事柄」と「上記の説明」を、スライドガラスを2枚重ね合わせるようにして解釈してみて下さい。
また、下記の
「加藤大岳述 易学大講座」の要約も、ぜひ併せてお読みになり理解を深めましょう。
<説明の要点>
明夷の暗は、初めに深く、後には遂に晴れ渡ってゆくのですが、そういった時の流れは別として、物の位置だけから考えますと、内卦離の明るさを覆っているのは外卦の坤であります。
それを爻で言えば、陰邪をもって上位にある上爻です。
この初爻は、その上爻から最も遠のいています。
それゆえ、明夷の初めにあって最も暗くあるべき時に、加害者から隔たっているために危難を免れる意味もあり、それらの入り混じった状況を、この爻辞は非常に巧みに表現しています。
初爻と二爻は艱貞すべき明夷ではなく、逃れて大難を免れるべき時なので、鳥(離をもって鳥)が飛び立って逃れるように明徳ある君子(内卦離)は、逃げ去るのです。
道ならぬ世に仕えることを好まぬ潔癖さと、仕えて身に災いを受けることを予知する明察とをもって、あえて食禄を受けない。それを「三日食わず」と言っています。
これは去ることの速やかさを示しておりますが、決して狼狽しているわけではありません。
慌て怪しむのは、むしろ去り行かれる側のほうで、彼がなぜ全てを放棄して逃げて行くのか分からないまま、いぶかり尋ねるのです。
その有様を「往く攸あれば、主人言あり」と表現したのです。
ところで、明夷の時に鳥の飛び立つように君子が逃れ去るのに「其の翼を垂る」とあります。
これは既に被害を被って、飛び立つことが出来ないのではなくて、飛び去るのに羽ばたいて空高くのぼり人目を集めることを避けるために翼を収めて忍びやかに立つのです。
義において食禄を受けない潔癖さと、身近な危難に対する明察と保身とを併せて考えてこそ、この爻辞を正確に捉えることができるでしょう。
(加藤大岳述 易学大講座 現代語要訳)