〈爻辞〉
「箕子の明夷。貞に利ろし」
〈読み方〉
きしの めいい。ていに よろし。
<爻辞の意味>
「暗黒の時代における箕子の居かたは、正しくてよろしい」
「地火明夷(ちかめいい)」の卦(か)は、「明らかなる者が傷つけられる時代」について説かれた卦です。
そんな中この五爻は、箕子(きし)という個人名で表されています。
箕子とは、殷の時代の暴君・紂王(ちゅうおう)に仕えていた叔父です。
暴君に仕えなくてはならなかった箕子は、自分の聡明さ・徳の高さを隠し、狂人のふりをして身を守りました。
しかし心の中には決して正しさを失わなかったと言われています。
後に機を見て、朝鮮へ渡り、国王となったとされています。
「占った事柄」と「上記の説明」を、スライドガラスを2枚重ね合わせるようにして解釈してみて下さい。
また、下記の
「加藤大岳述 易学大講座」の要約も、ぜひ併せてお読みになり理解を深めましょう。
<説明の要点>
この五爻は主卦の主爻であり、この卦の主爻の一つです。
坤暗に覆われて、その明るさが夷られるという明夷の卦の主爻は言うまでもなく二爻です。
そして、その明を夷るほうの主爻は上爻です。
しかし、その上爻を昏暗の主とさせたのは、やはりこの五爻だとも見ることができるのです。
そうすると君位にあるこの爻こそ、本当の主爻だとも言えないことはないかもしれません。
それを理解するには、水火既済という卦と、この地火明夷の卦を並べて考えてみる必要があります。
その違いは、五爻の陰陽のみです。
既済は五爻に正しく陽があるだけで、位ととのう意味を表し、一方明夷は、そこが陽位に陰があるだけで道の行われぬ昏昧を表すことになってしまうのです。
言いかえれば、その位に就くべき者が就かぬために、権力が他へ移って明夷の无道を生じてしまったのです。
ですから、この五爻こそが真の主爻だとも言えるわけです。
それならば、明夷を既済にすれば事は解決するわけですが、柔徳のこの爻には、その力はありません。
とすると、その志を表して、現在権力を持っている者からの災いを被るよりは、それを昧ましてジッとしていたほうが良い。それを「箕子の明夷」と言っています。
※「箕子」とは、紂王の叔父。紂王とは殷の最後の王で、酒池肉林にふけり、周の武王の討伐にて滅ぼされました。紂王ににらまれた箕子は、危険を察知し狂人をよそおい国外へ逃げました。
このようにして、その明を昧ましていても、その明徳が消えてしまうというわけではありません。
(加藤大岳述 易学大講座 現代語要訳)