〈爻辞〉
「明夷。南に于て狩りし。其の大首を得。疾く貞にすべからず」
〈読み方〉
めいい。みなみに おいて かりし。その たいしゅをう。とく ていに すべからず。
<爻辞の意味>
「明らかなものが傷つけられる時代。明らかなるものが悪を排除しようと動き、その首を取る。急いではならず、正しくあるべきだ」
「地火明夷(ちかめいい)」の卦(か)は、「明らかなる者が傷つけられる時代」について説かれた卦です。
そのような時代の中、この三爻は明らかなものであり、悪(上爻を指します)を取り除こうと動き、そして終にはその首を討ちとります。
しかし、いくらそのように正しいことであっても、下(三爻)が上(上爻)を打ち滅ぼす行為は、性急であってはいけないと言っています。
抑えて抑えて、抑えられなくなったときに初めて「やむを得ず討つ」ことに正当性が生まれるのです。
「占った事柄」と「上記の説明」を、スライドガラスを2枚重ね合わせるようにして解釈してみて下さい。
また、下記の
「加藤大岳述 易学大講座」の要約も、ぜひ併せてお読みになり理解を深めましょう。
<説明の要点>
これは内卦離の極まる所にいて、離為火や火地晋の上爻がそうであったように、明徳を用いず烈火の威武をたくましくするのです。
それを、どこへ向かって敢行するかと言えば、明夷暗昧の頭、応位にある上爻に対してです。
離火の威武を用いることを南狩に象り(離を南・兵戈とし、変じた震を進撃とする)討伐する相手が暗昧の頭の上爻であるのを大首に喩えています。
しかし、いかに明夷の因をなしているとは言え、下から上を討つというのでは、そうやすやすと事を挙げてはならない。
正しくないものを正すのだからと言っても、すぐに行って良いというものではない。
どうしても彼を取り除かなくてはならないという勢いが天下の声となり、やむにやまれずして行われた時にのみ、初めて天下の志を達することができるのです。
明夷の闇の因となっている支配者は本当の君主(五爻)ではなく、その上位に置かれ、やがてはその位を保ち得ないことが示されています。
ですから下より上を討つにしても、決して臣が君を奪うものではないという道筋が整えられています。
これは易の作者が並々ならぬ深さをもって作ったことのうかがえる点であり、易が東洋倫理の大道を標示する一面と言えるでしょう。
(加藤大岳述 易学大講座 現代語要訳)