さんぷうこ ほんか
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━ ━主爻
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<卦辞>
「蠱は元いに亨る。大川を渉るに利ろし。
甲に先だつこと三日。甲に後るること三日」
<読み方>
こは おおいに とおる。たいせんを わたるに よろし
こうに さきだつこと さんじつ。こうに おくるること さんじつ。
<説明の要点>
「山風蠱」は、ひとつ前の卦「沢雷隨」の綜卦(さかさまになっている卦)です。
隨と蠱は綜卦になっているとはいうものの、意味からいうと「したがう」と「そこなう」とでは相対的とは言えません。
ちょっと見ただけでは何の関係もなさそうです。
しかしこれを二人の人に見立ててみますと、隋のほうは内卦震(壮年の男子)が、外卦兌(年若き女子)の後を慕って、どこまでも付いて行くという象です。
一方、この蠱は、内卦巽(年増女)が、外卦艮(年若き男)を誘惑し、爛れた(ただれた)道を歩ませるという象です。
この点においては、男女の位置、行き方で相対的であります。
内卦は巽で風です。
外卦は艮で山です。
風というものは流通振作の性質があります。
風は空気を移動させ、あらゆるものに清新な感触を与えていく働きがあります。
しかし、この卦においては、艮の山の麓に押しとどめられてしまい、吹きぬけることができません。
それにより、空気を濁らせ、湿気をよび、カビを生えさせたり、物を腐敗に導いたり、ついにはウジの湧くような状態にまで至らせます。
たとえば洋服を風に当てることをせずタンスの奥深くにしまい込んでいたりするとカビが生えたり虫に食われたりします。
その場合は艮が箱の蓋で、巽は腐った空気です。
艮の蓋のある容器に、巽の臭い風が閉じ込められていれば、いやでも物を腐敗させるようになります。
蠱という字は、蟲が三匹、皿の上にある文字で、この皿の上の蟲はしまいには必ず同類相喰む状態となるのは当然のことです。
そういう意味で蠱の字は「そこなう」」と訓読みし「みだれる」と
解します。
さらに「まどわす」「ふるし」「やぶる」です。
予、隨、蠱と配されるのも「喜びを以て人に隨うものは必ず事あり」ということです。
平和に馴れ、楽しみに泥み、向上進取の気力を失ったため、更新されない空気の中に色々な弊毒が生じたのが蠱弊なのです。
ですから、このまま放任しておかず何とか正していかなくてはなりません。
「大川を渉に利ろし」とはそのことで、重大な覚悟をもって改新の策を施さなくてはならないことを教えているのです。
そして各爻も、旧弊是正の意味を見ています。
「蠱は元いに亨る」とありますが、蠱は蠱のままで亨るわけではありません。
蠱の状態にあるものは、その弊毒を更新し大いに打開の道を建てることが先ず主題とならなくてはなりません。
その方法が「大川を渉る」「甲に先だつこと三日。甲に後るること三日」なの です。
「大川を渉る」ほどの一大決心が無ければ蠱弊は是正できません。
また「甲に先だつこと三日。甲に後るること三日」とは、これを改めなくてはならないと分かっていても、いきなり実行に移すのではなく、まずは蠱の生じた由縁を調べ、そして悪しきを削り取り、再び蠱を生み出さない用意を充分にしていくべきである……そして、事を起こす三日前に用意を整え、事を起こしたら、その三日後には功を挙げるくらい速やかに、徹底的に行うべきということです。
(加藤大岳述 易学大講座 現代語要訳)